日々の喜びが目先の食事にしかなくて、平日の午前は昼飯のことを考え、平日の午後は晩飯のことを考えてやり過ごしている。
苛烈な時期が近付いているので案の定上長がピリピリしており、今期の人柱アリスに時間単位の熱烈指導をしているのが、過密状態に近いオフィスルームで全然筒抜けに聞こえてきている。「立場的にはまあそうなるんでしょうね」と「チェックを投げ出さない辺り、職務遂行能力をまだ失ってはいないんだろうな」というのと、「そもそもオメーの指示も分かりづらいし締め切りも聞かなきゃ具体的な数字で出て来ないんだからタイムマネジメントがどうこうはそっちの落ち度に決まってんだろボケ」「オメーそれは指導とかじゃなくて単純罵倒でしかないだろ」が入り乱れている。
わたくしは前年度の人柱アリスとして、こちらの上長の指示が控えめに言って「極めて分かりづらい*1」ことをよく理解している。
ここでの登場人物が全員終身雇用勢なら、「よっしゃここでカスクソの首級をあげてやろうじゃん」と、抗戦姿勢なり撤退姿勢なりを取れるんですけど、このオフィスビルに勤務している人間には全員期限が付いているので、(別にこれ一年も続かないしな)と思って聞き流しているところがある。そういえば先日帰る方向が一緒になった今年度のアリスも、似たようなことを言っていた。どうせ帰る社屋があるのに、何故わざわざよその社屋で、それもきっと一筋縄ではいかないのだろうリーガルバトルに踏み込まねばならないのか?
テンパリ上司側もこれで他に有給申請を通さないとかいう他の瑕疵があるのなら、ここらで一花と鬨の声を上げるのもありましょうが、そういうことはないので、こちらも昼飯のことを考えながらスルーパスしている。
会社が入っているオフィスビルの近くにはチェーン店ではない弁当屋があり、そこのおかずの大根が好き。私は料理が上手い他人が炊いた大根が好き。
以前自力で風呂吹き大根を作ろうとし、なんかめっちゃ時間かかることを知って中途半端に断念して、結果アツアツでありながら芯のある無味大根をむしゃむしゃやった時のことを思うと、箸が簡単に通る大根の煮物を作る弁当屋のレジにいるおっさんに、結婚を申し込みそうになる。君の大根を毎日食べたい。不審者である。レジのおじが調理担当も兼ねているのかはわからないので、そこで留まっている。
というか、金を払えば別に、結婚しなかろうと、ほぼ毎日食べられるのでは? 弁当屋だし。君の大根を毎日食べるためには、仕事をする必要がある。あとたぶん、今の給料と生活だと君の大根を毎日食べるにはちょっと苦しい。