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社会人ちゃんの日記

古典を読むときは本の裏に書いてあるあらすじ情報以外見るな(ホーソーン著、小川高義訳『緋文字』、光文社、2013年)

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台北近郊にある方の国家人権博物館の図書館室に置かれていた『紅字』を見てぎょっとしたあと、買ったSIMで接続しているインターネットで検索したら『緋文字』だということが分かったし、表紙に描かれている髭おじは著者のホーソンらしいこともわかった。

過去に世界史選択の学生をしていたのでホーソン(『緋文字』)、エマーソン、ホイットマンが19世紀ロマン主義文学に分類される合衆国の作家で、婚外の姦通をした主人公がピューリタン的な植民地法のもとで胸につけさせられたそれこそがタイトルの『緋文字』であるというのは脳に刷り込まれているんですけど、そういえば読んだことがなかったので読んでみた。物凄く時間を掛けて。

 

※以下『緋文字』のストーリーネタバレを含むので、『緋文字』で新鮮な読書体験をしたい方は開かないでください!

 


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この記事を書いてる頃から休み休み読んでた。

 

冒頭の税関の話は何にもつけて業務を思い出して個人的に気が滅入りましたが、以降の本編(舞台が17世紀ニューイングランド植民地に移ったあたり)からは話としても結構面白く、文章が特別読みづらいという訳でもなく、睡眠がぐちゃぐちゃの状態でも結構読める。

一方でところどころツイッターで流れてくるバズ格言ツイートのような箇所があり、バズツイートが本文のそこかしこに出現することでどうにも気が散って、夏頃の私は、海辺で薬草を摘んでいるチリングワース医師がヘスターと何か会話しているシーンで一旦止めて『滅ぼす』に移ったような記憶がある。

 

「世の風向きは専制君主のように気紛れだ。あたりまえの正義でさえも、ただ権利として求めると拒否されるかもしれない。だが、こちらが下手に出て親切心をくすぐれば、正義に上乗せした度量を見せてもらえよう。」(ホーソーン著、小川高義訳『緋文字』、光文社、2013年、pp.264-265)

 

↑こういうバズりそうなコメントが頻発する。

 

17世紀ニューイングランド植民地で婚外子を産んだへスター・プリンは「姦通(adultery)」の頭文字であるAの文字を付けさせられ、姦通の結果生まれた父親の分からない娘と共に村の隅のボロ小屋で暮らす。ヘスターの夫チリングワースは、彼女が姦通した相手である牧師ディムズデールに復讐する為、原住民の医術にも長けた老医師に身をやつして既に罪悪感で自滅しそうな牧師と知己を得、彼の健康をサポートしつつ一方では罪悪感を擽りながらそれとなく苛んでいく。

あれから7年、へスター・プリンの姦通の結果生まれた娘パールは魔性らしく美しく育ち、ヘスターに対する村人の眼差しは徐々に緩和していたが、牧師の健康状態は好ましくなく、徐々に衰弱しながらある日のお勤めの帰り道に彼はヘスターと森の中で出会い、七年ぶりに会話をする。

 

という感じの話なんですが、

 

私はこの話のことをタイトルと作者以外ほとんど知らないで読んだので、この森の中の会話シーン後(物語後編)で何となく「まあこうなるでしょうね」と予測がついてしまい、また気乗りしなくなって三か月程放置した後、久しぶりに読んでみたら凄い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!牧師が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!凄い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!「もうキスしてくれるかな?」って!!!!!!!!!!!!お前!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

になった。

 

たぶん時間的にかなり間隔を空けながら読んだので、舞台が「17世紀ニューイングランド」であることを結構忘れつつ物語終盤に差し掛かって、期せずして発生した展開にテンション爆上がりのオタクになったんだと思う。間髪入れずに読んでいたらここまでテンションが上がることもなかっただろう。冷静に考えるとまあそうなるだろうなというところではあるので。

でも読了直後は本当にテンションがぶち上げ、だってあの七年間神と罪のこと考えて擦り減らしに擦り減っていた牧師があんな……という感じだったので、「緋文字のエンディングで興奮したんですよ」という日記を書こうと思って改めて本作のコトバンクを見たら、思いっきり結末部分のネタバレがばっちり書いてあった。

 

所謂古典作品を見る時は、事前に調べたりしない方がいいです。

あいつら、平気な顔してネタバレしてくる。

無論この作品が初出したのは1850年なので、人間一世代がだいたい30年ぐらいで入れ替わるとしても五世代分よりも前からこの世に存在してる有名作品なんだから、お前さっさと既読であれよと言われると、そっか……という言葉しか出て来ないんですけれども、エンディングを知らないで読んだ方がこれ面白いと思います。

 

何ならそれよりももっと前の情報で、「ヘスターの姦淫相手が牧師」というのを本文読みながら知った時も私は結構驚きましたし*1、厳格なピューリタン社会が構築されている17世紀アメリカ植民地で、牧師と姦通!? 超エキサイティングじゃんと思ったりもしました。貴重すぎる新鮮な読書体験。古典を読むときは本の後ろに書いてあるあらすじ情報以外何も見るな*2。オタクより。

 

 

*1:あらすじに名前が出てくるので勘が鋭い人にはわかるような仕組みになっていると思いますが、本文前半でわかる情報は「ヘスターは父親の名前がわからない子供を産んだかどで処刑台に立たされ、さらし者にされている」ということだけなので相手が誰かはわからない。

*2:私の手元にある『緋文字』の場合、本の裏(同人誌でいう表4)の部分にあるあらすじは以下の通り。「17世紀ニューイングランド、幼子をかき抱いて刑台に立った女の胸に付けられた「A」の文字。子供の父親の名を明かさないヘスター・プリンを、若き教区牧師と謎の医師が見守っていた。各々の罪を抱えた三つの魂が交わるとき、緋文字の秘密が明らかに!」ネタバレもないしあらすじとしても間違っていない。