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社会人ちゃんの日記

実は2時間実写監督による大説教を期待していた(「君たちはどう生きるか」(2022))

 


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思い立って駅直結ショッピングモール内の映画館の席を購入し「これで上映時間ギリギリについたとて間に合うぞ!」と思っていたんですけど全然迷った。

 

  • 思ったより(というか、案の定)お盆のショッピングモールが混雑していた。

これは仕方がない。私が予測して動くべきだった。

 

  • ショッピングモールの東西を繋ぐ廊下が工事中で通行止めになっていた。

これはショッピングモールの入口に書いておいてくれよ。

おかげさまで5階と2階を三往復した。

 

 

ツイッター(X)見てたら入ってきた情報のひとつに「上映前の予告編が入らないから十分遅れとかで入ると普通に上映開始してるぞ」というものがあったんですけど、5階と2階を3往復してもまだイマジナリーフレンドの終着駅みたいな映画新作宣伝CMしてたので、これはセーフカウントとして頂けないでしょうか。宣伝CMガチ勢の方がいらっしゃいましたら大変申し訳ないんですけれども。

 

以下現在上映中の映画のネタバレを含みます。

 

 

 

 

あらすじ

開戦後二年目*1に発生した火災で母を喪った真人くんは工場長の父に連れられ、後妻さん*2のナツコさんが住まう地方のお屋敷(母方の実家)に逃れてきたところ、「御母上は生きていらっしゃる」等と証言するアオサギ(ポスターに出てたあいつ)にやたらと絡まれる。このアオサギが巣にしているお屋敷の離れの塔はいわくつきで、かつて大叔父がそこで発狂し姿が見えなくなったらしい。

案の定田舎のイガグリ学校になじめず初日から喧嘩、その後自傷することで被害を大きく見せる芸術点の高いコンボを決めた真人くんがお屋敷の中で度々絡んでくるアオサギに木刀で挑んだり、使用人を買収して得た技術を用いたお手製弓矢を作ったりして装備を固めていたある日、妊娠中のナツコさんが失踪。彼女の後を追って真人くんがいわくつきの塔に向かうと、例のアオサギが待ち構えており……

 

風立ちぬ」と前後する時代設定ですが、実際「戦時中」の時間軸であることに特段の意味合いはなく、このストーリーやキャラクターを組み立てやすい設定が「戦時下の(いわゆる)上級国民」だったんじゃないかなと思います。話の本筋に戦争はあんまり絡んでこない。

 

というか、本編見てる途中はさらっと流してましたけど、真人くんのお父さん、お母さんの妹さんと結婚したんか⁉ と、今ブログ書いてて思った。そんなに驚くべきことではないようです。

 

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(たぶん)宮崎駿監督アニメ映画における「異界」や「ファンタジー描写」の総集編という感じで面白かった。

天空の城ラピュタ」、「ハウルの動く城」とか「耳をすませば*3、「千と千尋の神隠し」辺りを思い出しながら観ていました。もっとちゃんと探すと、「これ過去作で見たことある表現だ」というところはもっと出てくると思います。

個人的にヒエロニムス・ボスみたいな、どっちかというと薄気味悪いファンタジーが好きなので、「おいで下さい」のシーンや、塔の中の異世界に出発する時点で描かれるお供キャラクター(タバコのばあさん・君生きバード)のどれもが手放しで「カワイイ!」という造形ではないところが良かったなと思っています。可愛くないという訳でもないんですけど醜いと言えばそう。

一方、あの白くてポワポワしたやがて人間に生まれ変わるものはストレートにメチャメチャ可愛いなと思う。コダマを現代商業ベースに乗せようとするとああなるんでしょうか? あれのぬいぐるみとか、電球から垂らす糸にくっつける蛍光型のフィギュアとかあったら、多分買ってる。

 

 

 

君生きバードと真人くん

作中、塔の中の異世界に吸い込まれた真人くんを最初に保護する推定タバコおばあさんの若かりし頃(または塔の中のフィクション世界での姿)が、この二者に向かって「あんたらお似合いだよ 二人でナツコさんを見つけに行きな」と放言するシーンがあるんですけど、ジコ坊みたいな面したおっさんと、お母さんにそっくりで寝てるとほんとうにきれいな女の子みたいな顔をしている真人くんが、互いに何となく敵意を向けつつ、なんか間の抜けたやり取りしているところだ~い好きなオタクはテンションがブチ上がった。

これでアオサギの下から出て来たのがイケメンだったら、オタク(一人称)は正直ここまでテンション上がらなかったので、あの下から出て来たのがジコ坊みたいな小太りのおっさんで本当に良かった。ありがとう!!!!!!! 友達!!!!!!!! あの二者、「素人はこれだから」というところの最後まで良かった。個人的なヒット。

 

 

作中に現れた他の鳥類も良かった。

塔の中の創造世界で序盤エネミーっぽいペリカンはいかにここが地獄であるかを語るという見せ場がありつつ最後には(種族としては)救いがありますし、創造世界における中ボスの格を見せるインコが、現実と創造世界を繋ぐドアから出ると可愛いインコチャンでしかないところ個人的に良いバランスだと思いました。

ナイフを研ぎながらウキウキで見せつけてくるあの激ヤバインコが、ドアを潜ると小型化し人間の肩に留まって羽繕いをするのが可愛い。現実の鳥がちょっと留まったと思ったら必ずウンコしていくのも良かった。あいつら即ウンコしますからね。

 


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積み木おじさん

作中の現実世界では「頭がおかしくなって失踪した」と言われている大叔父さんが塔の中の世界を維持・安定する役目を担っており、これを真人くんに継がせたがっている。

 

「この石(各地を旅して見つけた悪意のない13の石)で君の塔を作りなさい 時間がないんだ。私の塔はもう持たない」→「なんたる裏切りか! 貸せ私がやる」の一連の流れがなんか、フィクションの源泉を現実に求めることはあまり行儀がいい振る舞いではないことを知りつつ、監督自身が引退し息子に事業を引き継がせた時に発生したのかもしれないごたごたのこと当て擦ってるのかな……というような邪推をしました。

 

過去の女性たちとめぐる巡礼の旅

真人くんは隕石塔の中の恐らくフィクション世界(大叔父さんが隕石の力を得て創造したと思われる空間)の中をタバコのおばあさん→かつての母親の姿 と女性に手を引かれながら巡り、最後にはナツコさん(新しい母親)の手を取って現実世界に帰還を果たすわけですが、この「女性に手を引かれながら場を巡る」という枠組みを見ながら上映中に『セロトニン』のことを思い出していた。

 

 

宣伝

 

本作はアオサギのポスターとタイトル以外一切事前情報がないまま封切りした様がTwitterで話題になりオタクのオモチャになっていた印象がありますが、実際見るとちゃんとアニメ映画だった。当たり前といったら当たり前ですけれども。

 

実写監督による二時間の大説教映像を期待して見に行った訳ではありませんが、実際かなりちゃんとアニメ映画だった様を見てから振り返ると、事前に「ああいう映画の内容ですよ」という告知がもしされていたら、自分は映画館まで見に行っただろうか? と思うと、たぶんロードショーでの公開を待ったと思う。

 

普段あんまり映画館に映画を見に行かないので、映画を見る度会員カードを作るかどうか迷って結局やめる、みたいなことをもう10年ぐらいずっと繰り返している。それでいて話題作だけ映画を見るので、映画館で同席した他人のことをどうしても思い出してしまって、思い立ったので自分一人で映画に行こう!となると「2000円払って赤の他人の吐息や咳の音を聞くことになっても見たいか?」がまず頭の中に浮かぶ。

他人と観に行く場合は「他人と会う」というイベント込みで見に行くので全然かまわないんですけど、「自分一人で映画に行く」となると、そこまでして赤の他人面会イベするなら、家で見れるようになるのを待つか……という気持ちが湧いてくるという話です。

実際、以前観に行ったスラムダンクでは観客の悲鳴を聞き、今回の映画でもどこかで同席していたらしいお子様が「怖い」と思ったポイントを注意喚起されながら観ていた。

冒頭の塔に潜り込む真人くんのシーンとかをお怖がりあそばしていて(なるほどな)と思ったんですけど、中盤以降のインコパニックシーンは「こわい」宣言が入らなかったので、画面がある程度明るくコミカルだと、お子様的にその場では「こわい」判定に入らないのかな? と思いを馳せたりもした。たぶん後で夢に出るのはインコまっしぐらだと思う。

 

宣伝がないことで今回自分はあの映画を見に行ったんだろうな、という感想に戻ります。

 

また、あの映画を「こういう内容ですよ」という枠に収めるのは難しいようにも思っている。

番宣を作る方々はプロと思いますので、流石にそこはどうにかするとは思いますが、あの映画をどうやって切り貼りすれば適切な番宣になるのか、個人的には想像がつかない。

あれを「少年の冒険活劇」として見ることはできると思いますが、それにしては少年の持つ背景がちょっと独特。とはいえ真人くんを「戦時下の少年」と言うには、この話は戦争を主軸にしたフィクションではないし……と思う。

いずれにせよスタジオの知名度あってこその話と思いますが、「事前に何も情報を出さない」でいて、オタクの大喜利がネットで燃え広がっているのを勝手に眺める焼き畑みたいな宣伝方法に、私(オタク)はまんまと嵌って2000円払ってきた感じがある。

 

実際観に行って後悔しているということはない。

監督が過去作で描いて来たフィクション描写を大画面で見てオタクは興奮しましたし、現実パートでも、「ハエ避けの網の下にあるおひつから保存してある炊飯済の米を取り出し、適当に噛んだものを糊の代わりにして矢に羽根を着けるシーン」とか、だいぶ歴史資料っぽい趣のある仕草だなと思って興奮した。

過去の生活動作を、確からしい再現度のアニメーションで見ると、オタクは興奮する。アニメ新作としてこの過去の仕草を見ることが出来るのって、それはそれで貴重だと思います。

 

とはいえ、実写宮崎駿二時間大説教を若干期待していたところも否めない。

流石にここまで名前が売れていて、いきなりそんなめちゃめちゃなことはしないだろうとは思います。良い感じにまとまられるぐらいなら滅茶苦茶やってほしかった*4

しかし、特に児童が見ることを前提としたアニメーションとしては、「風立ちぬ」よりも、今作の方がより受容されやすいのではないか? とは思います。

そもそも「悪意のない石」を組み上げてこれまで塔を作ってきたと思われる御仁なんだから、新作映画枠をたっぷり使っていきなり実写二時間大説教とか、しないだろ。はい。無礼極まるオタクで本当に申し訳ないです。

 

 

*1:三年目だったかも

*2:作中では「父さんの好きな人」と言われるのでもしかするとまだ正式な婚姻関係にはないのかもしれませんが

*3:作中で雫が著したファンタジー小説の描写

*4:個人的に「風立ちぬ」のことはだいぶ「滅茶苦茶」寄りの作品として見ていて、あの終わり方と比較するとかなり穏やかな着地をしたことをここでは「いい感じにまとまる」と言っている