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社会人ちゃんの日記

漢と漢のロミオとジュリエット(「RRR」(2022))

THE STORY, THE FIRE, THE WATER, RRR を見ました。

 

※以下上映中映画のネタバレを含みます。

 

 

 

 


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大雑把なあらすじ(1)

舞台は1920年代英領インド。総督によって連れ去られた娘を救うべく、“羊飼い”ことビームは総督邸のあるデリーに潜伏している。一方英領インドの警察組織内で虎視眈々と出世を狙うラーマは特別捜査官の位を狙い、森から出て来て総督の命を狙っているらしい不届き者を生け捕りにしようと調査を進める。ある日二人は、汽車の事故に巻き込まれた少年を救ったことで、互いの素性を知らないまま大親友になってしまい……

 

漢と漢のロミオとジュリエット

こんなんね、腐女子は全員好き(クソデカ主語)

 

 

特にラーマはジョージ五世の写真に投石をクリーンヒットさせた男を大群衆の中から捕獲しとっ捕まえてくるシーンがあり、そこの働きぶりがターミネーターとかマトリックスで出てくる黒服の男っぽくて普通に怖いんですけど、

それと同じ男がアクタル(ビーム)には兄貴分として絡み、英語が喋れないのにイギリス人女性に惚れた面をしておたおたしているのを見て兄貴面をしつつ恋愛アシストをしたり、ダンスパーティーで案の定イギリス人紳士に絡まれるアクタルをアシストしダンスを踊ったりする。

でも二人の本当の姿は利害が食い違っている者同士、追うもの/追われるものですので、親友だと互いに思い合っている二人は結局殺し合う定めになるというわけです。ロミオとジュリエットじゃん。オタクはこういうの一番好きですからね。

 


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↑激アツオタクソング。

 

 

当初タイムラインで見ていた感想

 

 

こういう感じの注意喚起が回ってくるぐらいだった。

私が最初に見たのは「隣の席の老人が顔を青くして~……」という趣旨のツイートでしたが、そのツイートは見つけられなかった。

 

ただ、ご婦人が顔を真っ青にするんだからきっと首とかが、それはもう物凄い勢いで飛ぶんだろうな、と思いながら映画を見に行ったら、思いの他そういうタイプ描写はなかったです。

まあ人は殴り合いますし、群衆の人数がなんか1000人単位で、ちょっとした暴動が赤壁みたいな画面の迫力を醸し出しているというのはあります。

 

一方で、話の筋がイギリスによるインド支配からの独立闘争を歌う話ではある。

なので、お昼のテレビ番組がこの作品をどのように伝えているのかは知らないんですけれども、例えばインド版ラ・ラ・ランドを見に行くつもりであれ見に行ったらまあ、拳は飛び交いますし、強烈な人種差別を主題とした話で、ショックが大きかろうな、という話も分かる。

「インド人ごときに銃弾を使うな勿体ない(ノルマを達成できなかった酋長の死刑を撲殺で執行する)」→「白人(支配者層)の心臓を貫いた時に銃弾の真価が現れる(銃であいつらをぶっ殺せ)」というのが物語の最初に提示される課題と、最後の幕引きでもありますし……。

 


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娯楽としても成功した国威掲揚映画

ではないかと、映画を見た直後には直感でそう思った。

何せエンドロールで実在する偉人の顔がスライドショーのように流れてくると共に、「共に旗を掲げよう」という歌詞がリフレインされていることが字幕で分かったからだ。作中でも物語後半に向かうにつれ「母なるインド」というワードが散見されるようになりますし。

 

一方、エンドロールに流れる実写の人間は、「日本人の感覚で言うと幕末の志士の顔をスライドショーで流している感じ」という話が一緒に映画を見に行ったお友達のタイムラインには流れていたらしい。

また、エンディングの人物について調べたところだと、まあそんなもんなのかな……と思わなくもない(私は近現代インド史のことを教科書レベルでしか知らない)ですし、「掲げよう」と言われる旗が、少なくともインド国旗ではない。

 

ナショナリズムというよりはその手前の、本作のオマージュ元とした(のだと思われる)自分たちの共同体とその歴史に対する賛意を込めたものではないか、と思えなくもない*1

私はヒンディー語が読めないのでエンディングで掲げられる旗の内訳がよくわかっていないので、そこに書いてある内容によって、ここの感想はまた変わるかもしれません。

 

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大雑把なあらすじ(2)

総督帰還パーティーを開いている総督邸に野生解放して乗り込むビームであったが、ラーマの活躍によって寸でのところでマッリ(冒頭で攫われた娘)の奪還に失敗し、投獄され死刑を待つ身となる。

過去に反英闘争集落で暮らし訓練に明け暮れていたラーマは幼少期、集落を包囲した英軍の銃撃によって弟と母を喪い、さらに村を守るため自らの身体に爆弾を巻いた父を自らの手で撃ち抜いて英兵諸共爆死させたという過去を持つ。彼は今わの際の父と約束した「村人全員に銃(兵器)を持たせること」を遂行するため、英領インド警察機構内部に入り込むべく故郷の村を出発した。あれから四年、彼は待ち望んだ武器庫当番となる日を目前にしながら、鞭打ち刑に屈せず歌によって民衆を鼓舞したビームの勇姿こそを「武器」と捉え、ビームの死刑を失敗させるため画策する。

 


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「私はまだ血を見ていないわ」

これは私の偏見の話になりますが、冒頭でマッリがヘナを施している相手が女性=総督妻だったので「じゃあ今すぐひどいことになるわけじゃなさそうね」という感じで安心していたのがある。

私側も画面に現れるのが男性だと要警戒、女性であればまあ男よりは酷い結果にならんだろうという偏見ないし先入観を持って画面を見ているところがあるし、映画側も例えば、ナートゥのシーンでも基本的に差別者として描かれるのは若い男性、突如パーティーに現れた異物二名を受容する側として若い女性が描かれたりしている*2

 

 


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ですがこの総督妻は作中でも屈指の残虐キャラクターであり、ラーマの手による鞭打ちに跪かないビームの姿に業を煮やしてトゲまみれの鞭を投げ込んでくる。あくまで跪かないビームの姿に鼓舞されいっそう殺気立つ民衆の空気の変化等は、まあ物理的な高みにいるので当然目に入らないというのもありましょうが、総督もこれには「君は恐ろしい女だな」というようなことをニッコリ言いながら、殺気立つ民衆に取り囲まれた鞭打ち現場を前に夫婦で仲睦まじくしている。

一緒に見に行ったお友達は総督夫婦がサイコーの推しカプまっしぐらだったらしくて、映画を見たその日は興奮のあまり徹夜をしたと言っていた。

 

私もこの映画の「悪役」の描かれ方は好きだなと思っています。

なお、「支配者の描き方」や「歴史創作としての描かれ方」という点は、ここでは一切考慮していない。

 

基本的に「主人公を礼賛する趣のあるアクション映画」における悪役は、ひたすら不快なモブであることが多いように思っている。そのひたすら不快なモブの頂点に立つ悪の親玉というのはモブofモブ、いざ頂上決戦に行くと特段の見せ場も無く無様な命乞いをするが時既に遅し、その手のアクション映画はこのモブの親玉を殺してスカッとジャパンエンドになることが多い*3んですが、

ただ不快な「悪役」が打ちのめされる筋書きの何が面白いのか? そいつが「わからせ」られているのを見たところで受けた不快さは消えず、ただただ不愉快なだけなんだが。というタイプのオタクとしては、悪役としてのスコットが冷血かつ残虐、しかも有能ないぶし銀であるところに好感を持った。彼は不快さを撒き散らすだけのしょーもない悪役ではなく、最悪な悪玉として魅力的なキャラクターとして描かれていたなと私は感じている。

 

特に*4ビームの死刑予定地に赴く途中、ラーマの計略を早い段階で見破り*5→ラーマの細工によってヤシの木が命中して大きく弾んだ車というロケーションで銃を構え、前方を走るラーマの車に射撃をヒットさせる→無事着地し、後続の兵にラーマの捕獲を命令する。一連の有能ムーブを是非見てほしいですね。鮮やかなので。

 

大雑把なあらすじ(3)

ビームをわざと逃がした罪によってラーマは捕獲され、刑務所で死刑執行を待つ身となるがバガヴァッド・ギーターを諳んじながら筋トレを欠かさない。

一方マッリを連れてアグラに逃れていたビームはそこで政府によって「婚約者の死体を引き取る」ために故郷の村からアグラにやってきたラーマの婚約者・シータからラーマの真の目的を伝えられ、ラーマを刑務所から取り戻すべく単身デリーの刑務所へ乗り込んでいく。

 

 


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最終再臨

プリズン・ブレイク後、刑務所での拷問シーンで破壊されていたラーマの膝にビームは薬草を塗ると共に、近辺の森の中にあったシヴァ神の祠から弓矢をなんか失敬。ついでに(?)シヴァ神像の足元にあったなんかの粉を持ってくると、ラーマの額に塗ります。

総督の手のものも手をこまねいて森を見ているわけではなく、脱獄囚を追って特殊部隊が水分補給休憩をしているビームの元に肉薄しあわや! というところでなんか降臨する。

 

ここで最初に、森の木立の中を響く霊的な存在っぽい声が出た時、「これで神の領域の概念が出てきたら正直萎えるな~*6」と思っていましたが、そこに立っていたのは、なんか神っぽい腰布とズボンのみをお召しになった上半身裸のラーマ。

BGMも神/英雄を讃える歌となっていて彼はさながら神の化身というかデミゴッド オタクに通りが良さそうな言葉だとデミサーヴァントというか人間を依り代にした神格の召喚。

RRR世界の薬草がメチャメチャ効き目がいいのもありましょうし、大体デミサーヴァントになったのでその時点で人間状態のときに受けた負傷は帳消しになっている。ラーマはラグ家の末裔♬ 戦の英雄♬ 王威を放つ者♬

 


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この時点でラーマが「神がかり」に近しい存在になったっぽいことは彼の名前*7から察しがつくところですが、この時点ではビームにも大暴れ用のテーマソングが着く。

歌の中でアルジュナに言及するのでたぶんビーム/ビーマ?*8インド神話で結構メジャーな存在なんじゃないかな……と予想しつつ映画鑑賞を終えお友達に聞いてみたところ、アルジュナの兄弟の内の一人らしいです。

 

 

 

トラウマの共有

森で大暴れし総督付きの特殊部隊を壊滅せしめたラーマ&ビーマはそのまま総督のいる本丸?に突っ込み本丸を爆弾で吹っ飛ばした後、瀕死の総督を前に銃を手に取ったラーマは彼がその手で諸々の仇を取るのかと思いきや、「銃弾の真価を教えてやれ」と言いながらその銃をビームに手渡すと、「装填」と言い放ちます。かつて父親が彼に対してやったように、ラーマはビームに対し銃を持たせ、的を与え、「装填・照準・発射」のタイミングを指示する。

ビームはラーマを兄貴と呼んで慕うとともに、左手で飯を食って叱られる等ラーマのかつての弟に重ねるように意図された描写があり、おそらくここで二人で復讐/殺しを完遂することで本物の家族に“成”るという筋書きがあるのではないかとオタクは思っています。

 

「装填、狙い、撃て!」は、ラーマの人生にとっての一つのトラウマ(これによって彼は父親を殺している)であることには間違いない一方で、彼らの世界観では「母なるインド」の侵略者を滅することは何物にも代えがたい至上命題であって、ラーマが父から教わったそのための姿勢/行為/武力が、ラーマから擬似的な弟であるビーマに「受け継がれる」象徴的なシーンとも捉えられるということはわかる。

この映画に対するめちゃめちゃ男臭い映画だという評はもっともだと思うし、ホモソーシャルが未だ強固かつ至上のものとして見られる土壌から顕れたという文脈を持つ映画であることは間違いないのではないか、というぐらいには思っています。

 

漢同士のロミオとジュリエットから超ホモソーシャルを大画面で喰らう映画(179分)

個人のスタンスとして、このタイプの映画の興行収入に貢献するか否かというところは正直人それぞれなんじゃないかなというところはありつつ、配給会社の宣伝と思われる冒頭のロゴから音響がずっとクライマックス爆音なのでかなり映画館向けの作品だな、とは思う。男同士の関係が頭に刺さって抜けないタイプのオタクには絶対に好きなタイプの筋書きです。

 

ただ長い。実質三時間映画。

今回誘ってくれたお友達と私はトイレが近いタイプなので「三時間も絶対座ってられない」と観る前から騒いでいたところ、以前Twitterのフォロワーの方が「大福を食べると尿意が遠のく」とツイートだかリツイートされていたのを思い出して「物は試し」とコンビニで大福を探すものの玉砕、駅の近場にあった物は試しにしてはちょっと格式の高い大福を頂いたところ、179分間尿意フリーで映画鑑賞に集中することが出来ました。

ただ、大福を水無しで食べきった辺りからずっと喉が渇いていた。未来の私は是非参考にしてください。

 

 

*1:この映画を「ヒンディーナショナリズム」と称する見出しをいくつか見かけており、感想としてはそこに近しいのかな……とも思っている。

*2:とはいえ、あの場面では最終的に全員ナートゥダンスバトルに載ってくるので、全員お行儀ないしお育ちの良い素直な人間たちなんだなと思った面は若干ある。ナートゥを踊るという事前情報を得てはいたものの、まさか白人の主催するパーティーから彼らがつまみ出されないとは思っていなかったからだ

*3:ように思う、私はそもそもアクション系の映画をあまり見ないので、このあたりは偏見に満ちている

*4:というか、彼単体で有能ムーブをする場面はここぐらいしかなく、他は基本的に恐怖オーラを纏い要所要所で圧を掛けてくる存在なのだが

*5:ここで何で見破ったのかはよくわからない。友達は「握手した時に火薬が付いたからじゃないか」と言ってた。私は「握手した時に茶色が付いたことで「こいつは白人じゃないので、白人にいくら忠誠心を誓った面をしていても裏で何をしでかすかわからん、注意しよう。」ということに思い至ったから」だと思っている。

*6:神が存在する世界ならこんなクライマックスまで待たずにもっと早い段階から悲惨を打開するよう力を貸せよと思うタイプの思考を私はするため

*7:ラーマはインド最大の英雄のひとり

*8:大暴れテーマソング中の歌の中では「ビーマ」と名を謳われる。ビーマという名前の英雄はいらっしゃるのでおそらく「ビーム」というキャラの名づけはそこにちなんだのではないかと思うが、ビームがビーマの変形呼称なのか、ビームを歌で詠嘆系に称えるとビーマになるのか等、言葉同士のつながりはよくわかっていない。