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社会人ちゃんの日記

「世界は爆音ではなく、ささやきとともに終わるだろう。」(キース・トーマス著、佐田千織訳『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』、竹書房文庫、2021年、117ページ)

今週のお題「好きな小説」

 

 

フルタイムの労働を終えてからホワイトサンド精神病院の夜シフトに入ってるくらいの頻度でコピーキャットゲーム*1に勤しんでいるので、小説どころか140字以上から成る文章というものをほとんど読んでいない生活を送っているところ、表紙を一目見て貸出手続きに進んだこの小説がかなり面白かった。

 

裏表紙に書かれているあらすじには、「ファーストコンタクトをノンフィクション風に綴った、異色のモキュメンタリーSF」とある。

宇宙から送られてきた、人類ではない知的生命体によって意図的に作られた「パルス(光線)」の観測によって、以降人類規模で発生した「上昇」と呼ばれる災害をテーマにしたドキュメンタリー風に書き下ろしたSF小説ということです。

 

以降はこの作品に関するネタバレを含むブログ記事になるので、あらすじを読んで関心を持ったオタクの皆さんは今すぐ記事を閉じ、この小説を読んでください。

 

 

 

わたし、日頃ゲームをしながらサブスクリプションの動画サイトを開き、ドキュメンタリーを垂れ流す生活をしている。

というのも頭っからフィクションで特定の登場人物が居たりすると、ちゃんと視聴していないと話の筋がすぐわからなくなって、その内に話の勘所を押さえていればグッと心動かされるような愁嘆場シーンに入ると、「一体何を見せられているんだ」という気持ちになってすぐに閉じてしまうからです。そもそもながら視聴をするな!沢山の人がかかわって作ってるんだぞ!という話ですけれども。

 

その点、ドキュメンタリーは基本的に皆さんが説明をしてくれるので話を追いやすいし、何ならWikipediaに全てのネタバレが書いてあったりする。逆に過去にWikipediaやニュースサイトで出来事をある程度理解していることもある。

何なら自分、Wikipediaの記事を音声で流し続けるサイトとかあったら、ずっとそれを聞いてると思うし、ずんだもんが解説してくれる遭難事故の動画とか、一時期ずっと見ていた。

 

ただ、ある人間が一人で構想・作成からアップロードまで行うYoutube動画やニコニコ動画は大抵、「作者による価値判断」を明らかに主張するパートがどこかしらに挟まれることが多く、余程作者とウマが合わない場合、これらは結構見るに堪えない。

その点、どこかしらのスポンサーや放送局を背負っているドキュメンタリー番組・作品は、流石に複数人のチェックを経ているだけあってか、価値判断や主張の出し方が、いくらか呑み込みやすい形をしている。勿論、見るに堪えないものが無い訳ではなく、場合によっては動画よりも悪いケースもあります。

 

また、そもそもドキュメンタリー自体の主題が胸糞悪いテーマであることが多い。何せ知らせがないのは良い知らせなので、敢えて何らかの出来事を特集しているという時点で、それらは「悪い知らせ」であることが多いから、当然のことではある。

実際に数を数えて調べたわけではありませんが、私の(おそらく)検索履歴からおすすめされるネットフリックスドキュメンタリーの内、50%は子供に対する虐待・レイプを主題にした事件を取り上げた作品、50%は女性に対する虐待・レイプ及び殺人や死体遺棄を主題にした事件を取り上げた作品、そして残りの50%ぐらいで闘病、後の50%はマスコミによる過熱報道と冤罪被害が主題。200%がそんな感じなので、そうであればまだ、質の悪いホラー映画・ゾンビ映画を、最近誤って無料体験が始まってしまったAmazonPrimeで探して視聴する方がまだ、精神衛生上良い。ドキュメンタリーは解釈の幅こそあれ、大体の場合実際にあったことなので、少なからず胸糞の悪さがある。

 

なお、以下は女子供及び善人の屍河を泳ぎながら私が見つけた「比較的好んで繰り返し視聴している」ドキュメンタリーですが、これらは「私が気持ちよく視聴したおすすめほのぼのドキュメンタリー」の列挙ではないことをご注意下さい。ほのぼのドキュメンタリーは多分「密着! ネコの一週間 」とか、後はプラネットアースチャンネルとかを見るのが良いと思う。それこそ、「アザラシ幼稚園」と称される定点カメラでもいいでしょう。

 

 

 

「FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー」(2019年)

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2017年のバハマで起こった音楽祭中止騒動に関するドキュメンタリー。SNSを主にしたマーケティング手法が用いられているからか、映える画面が多い*2

類似のドキュメンタリーとして本作中でも言及される「とんでもカオス!:ウッドストック1999」*3がありますが、わたしはどちらかというとこちらの方をよく見ている。画面がポップだから。


www.youtube.com

 

「ラスト・ツァーリ: ロマノフ家の終焉」(2019年)

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ロシア革命によって惨殺されることとなったロマノフ朝最後の皇帝ニコライ2世と妻アレクサンドラ、そしてその子供に関するドキュメンタリー風のドラマ。

画面にパンチがあるのは勿論のことですが、信心深く心優しい人々が従来の暮らしを守ろうとしていることが……こんなにも人民の敵!という見せ方が胸に刺さっており定期的に見返している。イベントが起こるごとに専門家の解説シーンが入るので、ずっとドラマが続いて気持ちが落ち着かなくなることもない。同じような系列の歴史ドキュメンタリーだと「血と愛と王位」(2022年)*4もよく見る。

 

「EURO2020 ファイナル: 動乱のウェンブリー」(2024年)

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2021年ロンドンで開催されたEURO(サッカーのヨーロッパ大会)で観客が暴徒化しかけた出来事をテーマにした作品。最近の出来事なので画面が新しく、印象もフレッシュ。これについては「全裸で乱痴気騒ぎをしている群衆を安全圏から眺める」ような視聴の仕方をしている。

 

ヒトラーの共犯者たち」(2017年)

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ナチス政権の盛衰をヒトラーの周辺を固めていた官僚に焦点を当てて時系列順に紹介するドキュメンタリー。官僚がシノギを削っている話なので画面が静か。こちらが当時の官僚のことをそこまで知らなかったので興味深く見たという側面もある。

これを見てから「ヒトラーのための虐殺会議」を見ると、より職位が低い役人の皆様がシノギを削っている場面を目の当たりにすることになり、かなり話がわかりやすくなるし、上が狂うと下も簡単に狂うんだなということを感じる。定期的な収入を担保に役所仕事という体裁でこの手の仕事を与えられた時、拒み切ることができる人間はどれほどいるのだろうかというと……

 

tan8.hatenadiary.jp

 

「最後の一息」(2018年)

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プロの潜水士が北海の海底に取り残された事故を追うドキュメンタリー。(反転でネタバレ)死体が上がって来るドキュメンタリーの構図をしておきつつラストで元気にしてるところが良くて時々見る。

 

 

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架空のドキュメンタリー風作品の中では、「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」を時々見る。かっこいいから。

私はオタクってみんなイノセンスのことを好きだと思っていますし、イノセンスが好きなオタクは、ゴジラSPのことも好きだと思う。引用文を用いて会話を続ける構文が類似しているからです。

 


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このように、

私はドキュメンタリー風(少なくともそのように見える)作品のことを好んでいるので、『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変』も当然のように面白がって読んだ。

個人的にこの作品の特に好きなところは、「パルスに意図らしいものが見えない」というところです。パルスを発信した地球外生命体の意図らしいものは本文中で推測される程度のもので、それにしたって〝人間〟に射程を絞ってどうこうするという類のものではない。理解しかねる上理不尽なこの設定が貫かれたことが、この作品をより「ドキュメンタリーらしく」しているように思って好みだった*5。こういうオタクなので勿論映画のクローバーフィールドも好きですが、POV視点でめちゃめちゃ画面酔いするのであまり見れない。

 

 

 

一方、アメリカを舞台にしたアメリカ人による作品なので「まあそうなるだろう」というところではありますが、引かれる参考文献が欧米過ぎるというところで若干醒めた。世界規模の出来事を扱ったテイなら、もう少し得体の知れない文献が混ざるものではないか。しかし、あそこは英語ネイティブではない人間に対して英語ネイティブに引けを取らない英語をまず求めるようなところですので(偏見)、「合衆国」がもっともらしくする/「合衆国」でもっともらしい文献目録を作成すると、「そのようになる」ということかもしれません*6

 

また、もう一つの好きなポイントとしては

 

わたしは陰謀論者ではない。

その手のものは嫌いだ。

ある妄想を維持するために進んで嘘をつきつづける人々が、何百万人とはいわないまでも何十万人もいるなんて、信じられない。九月十一日の同時多発テロは内部の犯行ではなかった。ノルウェーは存在する。気候変動は現実だ。陰謀のように見えるものは、実のところ個人の失敗が周囲の道具立ての大きさによって拡大されただけなのだ。(同、150ページ 太字は引用者によるもの)

 

 

という感じの、恐らく舞台のアメリカで有名なのだろうオカルト/陰謀論系の言説が注釈なく出て来てびっくりできるところです。オタクの皆さん、読みましょう。よろしくお願いします。

 

x51.org

*1:第五人格の期間限定ゲームモード ゲーム性はAmong Usに似ている。

*2:同じ理屈でTinder詐欺師のドキュメンタリーを好んで視聴している。

*3:1999年に開催され、暴徒化した観客によって大混乱に陥ったロック・フェスティバルに関するドキュメンタリー

*4:16世紀イングランド王国テューダー朝二代目君主ヘンリ8世の二番目の王妃アン・ブーリンの成り上がりから処刑までをテーマにした作品

*5:そうではない作品が沢山あるかというとそう言う訳でもないと思いますが、自分が読んだ中では『白の闇』が最後キリスト教的な寓話オチをしたところが強く印象に残っている為、こういう感想が出たのだと思う。また日頃のTwitterで現れる理不尽な怪物や人外は大抵人間にガチ恋・べた惚れ・執着しているので、人間を意に介さない理不尽存在が新鮮に映ったというのもありそう。(ガチ恋・べた惚れ・執着も一つの理不尽の形であろうかと思いますが

*6:本作は「「上昇」が発生してしばらく経ってから、最初に「パルス」を観測した人物ということになった「ダリア・ミッチェル」という博士を中心に当時の出来事を整理する」という立ち位置の作品の為、当時の文献を集めると当然ダリアが住まうアメリカに話がクローズアップするということもあろうかと思う。