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社会人ちゃんの日記

佐藤究『テスカトリポカ』角川書店、2021年

 

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テスカトリポカ [ 佐藤 究 ]
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この本を読みました。面白かった! ので、まだ初見の感想を記録します。

 

アステカ王国でテスカトリポカに仕えた神官の血を引く麻薬密売人バルミロが、対立組織に家族を皆殺しにされた復讐を果たすためメキシコを逃れインドネシアに潜伏、そこで出会った「心臓外科医」と組んで日本でビジネスを開始する話でもあり、

やくざの父と麻薬密売人らののさばる故郷から逃れたメキシコ人の母を殺したことで少年院に入っていたコシモが出所後工房に就職、二人の義父からナイフづくりや殺人、アステカの神々について学ぶ話でもある。

 

その他バルミロの周辺やコシモの周辺に配置されている複数の人間の視点が書かれますが、本書でメインに書かれているのはバルミロの生い立ちと彼が手掛けるビジネスの動向、そしてコシモの生い立ちの話ではないか……と思っています。

こういうのを群像劇と言うのかと思って調べたところ、群像劇というのは「集団が巻き起こす物語の総称」であるようで、この話はどうなんだ? 作中に描かれる中心人物としてはバルミロが存在し続けると思いますし、このバルミロとは少し離れたところにおり「バルミロの関係人物」というには異色な存在がコシモになるだろうと思っています。

 

オタクの皆さんは好きだと思うのでぜひ読んでください。よろしくお願いします。

 

以下に核心部のネタバレを含みます。

 

 

 

www.seidosha.co.jp

 

インドネシアに潜伏していたバルミロは、トリップ中にひき逃げ事故を起こし指名手配となったことで日本から逃れた心臓外科医の末永と組み、日本の無戸籍児童の心臓を始めとする臓器を、各国の臓器移植を求める子供を持つ超富裕層に売りさばく心臓密売ビジネスを開始した。

バルミロの元で日々殺し屋として、そして「息子」としてアステカの神々に関する教育を受けていたコシモは、「虐待を振るう親」から守るためという名目で地下シェルターに匿われている無国籍児童の一人であり、自分の臓器が売られることに薄々感づいている順太と面会をするようになる。

順太からテスカトリポカの持つ真の属性について教えられたコシモは、工房の師匠であるパブロからイエス・キリストの言葉を授けられていたことも相俟って、「父」であるバルボアの行う人身供犠の信仰に疑問を持つ。そして「神官」である順太を生贄として殺さないため、バルボアと対峙する。

コシモと対峙したバルボアは絶命する寸前、自らに向かってきたコシモの姿にテスカトリポカの化身の姿を見る。

 

タイトルだけを決め手に手を出した本でしたがとても面白かった!

 

帯もついていない本を読み始めた初見の感想としては、「現代において神話を再現する」ような話だったなという印象があります。

 

まず、作中に描かれる現代の強度がかなり強い。

ストーリーでメインに描かれる多くは、違法行為に手を染めているとか、或いは見た目が「ガイジン」である故に遵法意識のある社会に包摂されないキャラクターですが、現代日本を舞台にした多国籍ってこんな感じなんだろうな、という納得感がありました。

フィクションノベルなんですけど、少なくとも舞台設定において、悪い意味でのフィクション「らしさ」というのがかなり薄い(これは読者層の趣味に合わせるとこうなる、というだけの話でもあると思います)。

 

その一方、描かれるキャラクター(特にコシモ)の腕力は常軌を逸しているところがあり、人知を逸した腕力が神話的な神々(及びその化身)を想像させます。

 

その上で、この話はバルミロらの手掛ける心臓密売ビジネス計画に2020年東京オリンピックを目掛けた豪華客船誘致の政策が組み込まれている等、かなり近い現代を舞台にしつつ、祖母の影響からアステカの神々を信仰するバルミロは結構頻繁に敵(生贄)の心臓を抉り抜いて祈りを捧げ、アステカで行われたとされる人身供犠の儀式を定期的に行う。

現代の、しかもかなり近い時間軸でストーリーが進んでいくなかで、バルミロの語りに流れる古代の時間が混ざり、古代の暦に規定された中で現代の物事が動いているような感覚がある。

 

作中のラストにおいて、コシモが順太に描いて見せたアステカの暦のシンボルが一巡した時、バルボアは「坊や」と呼び、自らを「父」と呼ばせて、人殺しの技術とアステカ神話を教え込んだコシモの手によって殺されますが、これはアステカ神話の創世記(5つの太陽の伝説)を擬えた結末のようだったなと思いました。

暦が終わり「太陽が隠れた」時、正しい供犠を行うことができなかったバルボアはテスカトリポカの化身によって殺害され、次の新たなる暦はコシモを主に巡るものになる(のだろう)というような。こんなかっちり嵌った話書いたら、めちゃめちゃ楽しいだろうな……。

 

初見感想は以上ですが、オタクの皆さんは好きだと思うのでぜひ読んでください。よろしくお願いします。私はこれから他人の感想を見に行こうと思います。